毒をもって毒を制す 自家免疫実践者達による副作用を引き起こさない新しい抗毒素の開発
僕達の身近に存在する毒液動物(蛇、蜂、蜘蛛など)による死亡例は毎年跡を絶たない。そして現在、僕達は彼らの毒に対する抗体(毒素を中和したり、オプソニン効果にによりマクロファージが毒素を貪食するのを補助する)を他の動物に作らせている。
その結果、例えば蛇の毒に対する抗体は馬に蛇の毒を少量注射する事で作成するのだが、人間以外の生物が作った抗体であるので、人間の免疫系が人間ではないタンパク質に過剰反応するアナフィラキシーショックでI年に何人かは命を落としている。
しかしそんな恐怖から解放される日が将来来る可能性が最新の研究によって示唆された。
目次
1.自家免疫のパイオニア スティーブ・ラドウィンによる実験
2.自家免疫実践者達の体の中には本当に毒に対する抗体ができているのか
3.まとめ
1.自家免疫のパイオニア スティーブ・ラドウィンによる実験
最初に言っておこうスティーブ・ラドウィンは科学者ではない。医者でも科学者でもない。彼はただのロックンローラーである。しかし彼がロックンローターであることは知られていない、彼は自分に蛇の毒液を注射する男として有名である。
彼は2週間ごとに6~8種類の異なる蛇の毒液からなるカクテルを自分の静脈に注射する。血液毒を持つクサリヘビ類から神経毒を持つコブラ科まで数十種類を試みた。
彼は毒液を自分に注射した時の気分を次のように述べていた。
「ハイな気分ではないけど、わくわくするような気持ちが押し寄せてくる」
「自分がまた24歳に戻ったような感じがするんだ」
彼は注射によって何度か死にかけている、しかし彼は普通の人ならば死んでしまう致死量の毒液を注射しても死ななかった。
そして彼はとても健康である。本人によれば彼は風邪もひかないし具合も悪くならない。インフルエンザにもかからないと言う。だが病気にならないわけではなく、彼は食中毒にかかり最悪だったと述べている。
彼によると、彼が自家免疫を実践するのは自分の免疫力を高めるだけでなく、自分の抗体で人の命を救うことであり、そのためのプロジェクトに彼は無償で参加すると述べていた。
そして現在、プロジェクトは着々と進んでいるようだ。
2.自家免疫実践者達の体の中には本当に毒に対する抗体ができているのか
自家免疫実践者であるスティーブ・ラドウィンは自家免疫のおかげで風邪1つひかないくらい元気だし、実際コブラに噛まれても死ななかったので、本当に毒に対する抗体が彼の体の中には出来上がっているように思われる。しかしエビデンスがない。
そこで、このパラグラフでは論文を1つ紹介しよう。(スティーブ・ラドウィンの抗体を調べたわけではない。)
これは2015年に行われた研究でタイトルは
「Snake venomics monocled cobra (Naja kaouthia) and investigation of human IgG response against venom toxins」
訳すとタイコブラの毒液と毒液に含まれる毒素に対する人IgG抗体の反応性の調査
この研究によると、自家免疫実践者達のIgG抗体はあらゆる種類の毒液に対して反応性があるのだが、最も危険な神経毒に対する反応性が見られないことがわかった。
つまり自家免疫実践者達の免疫系で一部対処できない毒素はあるのだが 動物ではなく人から毒に対する抗体が作られることがわかった。
3.まとめ
さて今回のブログでは人間由来の抗体が将来作られる可能性を示唆したのだがいかがだっただろうか?
生物の毒を注射することで免疫が強化され毒に対する抵抗性が強化されるなんて最高じゃないか?
だがひとつ警告しておくが皆さんは絶対にスティーブ・ラドウィンの真似はしてはならない。彼も最初はなんども死にかけている。
科学が進歩するのを気長に待ちましょう。
終
参考文献
毒々生物の奇妙な進化 著 ハワイ大学博士研究員 クリスティー・ウィルコックス